夕日に染まり、オレンジになった待ち合い室にいた人たちの顔には、
まるで生気が感じられなかった。
その中に彼女――異澤那海(イザワナミ)――はいた。
学校ではまるで彼女の周りだけ空気が腐敗しているように感じられ、
彼女だけが死人のような異質な雰囲気を持っていた。
だが、ここにいるのは彼女と同じ、生気のない人間ばかりだ。
大きな声で何事かを喋りながら自分の膝の上でミニカーを走らせる幼稚園児くらいの男の子と、
それをなだめる母親だけが生きた人間のように思えた。
男の子の指の関節は痛々しくひび割れ、ただれたようになっている。
皮膚科医院の待ち合い室とはどこもこんなものなのだろうか、
それともこの比良坂皮膚科医院だけがこういう雰囲気なのか、
初めて皮膚科医院を訪れた僕には判断が付かなかった。
僕は別に、皮膚病を患っていたワケではなかった。
耳にピアスの穴を開けようと思っていて、念のために金属アレルギーのテストを受けに、
近所の皮膚科医院を訪れただけだった。
暗くて目立たなくて友達もいなさそうで、
でも特に虐められたり忌避されたりしているワケでもない、
異澤那海という女子を、何故かその時をきっかけに意識するようになった。
異性として、というのではなく、彼女や待合室の患者たちが持つ奇妙な雰囲気が
ずっと心に引っかかって気になっていた。